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ラテン語 / Latina
性, 数, 格
前置詞, 副詞, 接続詞を除いた品詞全てに性・数・格の区別があります. 形容詞と名詞は性・数・格を一致させて記述します. 性・数・格などに応じて語形が変化しますが, その変化が多いです. また, 変化のパターンは 1 種類だけではなく, 名詞は第 1~第 5 変化名詞の5 つ, 動詞は第 1, 2, 3, 3b, 4 変化の 5 つ, 形容詞は第 1・2 変化と第 3 変化の 2 つがあります.
性
名詞は女性, 中性, 男性の三つの種類があります.
性 | 名詞 | 意味 |
---|---|---|
女性名詞 | māter | 母 |
女性名詞 | puella | 少女 |
中性名詞 | dōnum | 贈り物 |
中性名詞 | perīculum | 危険 |
男性名詞 | pater | 父 |
男性名詞 | medicus | 医者 |
形容詞の性は修飾する名詞の性・数・格に呼応します. 形容詞は2種類の変化がありますが, 名詞の変化と似ている場合があるので「形容詞+名詞」の塊だとわかりやすいこともあります. ここでは bonus「よい」を用いて修飾の例を示します.
性 | 形容詞+名詞 | 意味 |
---|---|---|
女性名詞 | bona patria | 良い祖国 |
中性名詞 | bonum dōnum | 良い贈り物 |
男性名詞 | bonus medicus | 良い医者 |
※動詞に関して性の区別はないですが, 分詞になると区別があります.
数
単数と複数の区別があります. 名詞を複数形にするときは変化の種類に応じてその名詞の語 尾を曲用させます. また, 格ごとに単数形と複数形が存在するため以下の例では主格のみを 示します.
単数 | 複数 |
---|---|
patria | patriae |
dōnum | dōna |
medicus | medicī |
形容詞の数は性の時と同じように名詞に呼応します.
単数 | 複数 |
---|---|
bona patria | bonae patriae |
bonum dōnum | bona dōna |
bonus medicus | bonī medicī |
動詞は文法上の数を持ちませんが, 主語の人称と単複で活用 (3×2=6通り) が変化します.
amō 「私が愛す」
amāmus 「私たちが愛す」
audiō 「私が聞く」
audīmus 「私たちが聞く」
格
格は主格, 属格, 与格, 対格, 奪格, 呼格の六つの格があります. 六つの格は名詞の語尾の活用によって表されます. 格を変化させることでその単語が文章中でどのようなはたらきをしているのかを表しています. この格変化が要で, 語順に影響します (後述). 以下で具体例を示します.
- ラテン語 : Puella aviae rosam dōnat.
- 英語 : A girl gives a rose to (her) grandmother.
ラテン語 | 逐語訳 | 格 |
---|---|---|
Puella | 少女が | 主格 |
aviae | おばあさんに | 与格 |
rosam | バラを | 対格 |
dōnat. | 贈る | 動詞(3人称単数) |
形容詞は性や数と同様に修飾する名詞の格に呼応して活用します. 次は, 形容詞が名詞を修飾している例文を見てみましょう.
- 英語 : A cute girl gives a beautiful rose to (her) grandmother.
- ラテン語 : Puella bella aviae rosam pulchram dōnat.
ラテン語 | 逐語訳 | 格 |
---|---|---|
Puella | 少女が | 主格 |
bella | かわいい | 主格 |
aviae | おばあさんに | 与格 |
rosam | バラを | 対格 |
pulchram | 美しい | 対格 |
dōnat. | 贈る | 動詞(3人称単数) |
形容詞は普通, 名詞の後ろに置かれます. 英語の”to”, ”a”に相当する語が羅文では無いのがわかるかと思います. ”Puella”や”rosam”は格変化によって数が決まり, 同様に”rosam”では英語の”to”にあたる意味が表れています.
時制
ラテン語の動詞には現在/過去/未来の 3 つの時制があります. 動詞の語尾を変えるだけですべての時制を表現できます (英語の will のような助動詞を用いる必要がありません). ただし活用の種類によって語尾変化のさせ方が変わる上に, 法や態 (後述) によって活用の規則が違うので, 活用の数が極めて多いです.
- amō「愛する」 (直説法能動態現在形 1 人称単数)
- amabō「愛するだろう」 (直説法能動態未来形 1 人称単数)
アスペクト (相)
現在相 (未完了相) と完了相があります. ラテン語では 2 つの相に時制が包含されています. すなわち, 変化の種類としては 現在/未完了過去 (半過去形)/未来/完了/過去完了 (大過去形)/未来完了 があることになります. 時制と同様に完了相も動詞の語尾を変化させることで表現できます.
- amābam「愛していた」 (直説法能動態未完了過去形 1 人称単数)
- amāvī「愛した」 (直説法能動態完了形 1 人称単数)
- amāveram「(ある過去の時点から見て) 愛していた」 (直説法能動態過去完了形 1 人称単数)
- amāverō「愛しているだろう」 (直説法能動態未来完了形 1 人称単数)
法
直説法, 接続法, 命令法があります. 接続法は話し手が事柄を主観的に, 願望や不確かさなどの気持ちをこめて述べるときに使います. 間接話法が 1 つの例です.
- 間接話法 : Dīcunt frātrem tuum fortem esse. あなたの兄は強い, と彼らは言う
- 直接話法 : Frāter tuus fortis est. あなたの兄は強い
- 願望 : Valeant cīvēs meī; sint incoulumēs. 我が市民達よ, 元気であれ無事であれ
態
能動態と受動態がありますが, これも動詞の語尾変化で表現できます. 能動態現在形をとっても, 法 (前述) によって変化のさせ方が異なります. よく古代人は話せたものだと感心するほど変化表が膨大です.
- 受動態 : Nostra peccāta ā Christō dēlentur. 我々の罪はキリストによって滅ぼされる
(nostra peccāta は主格) - 能動態 : Christus dēlet nostra peccāta. キリストは我々の罪を滅ぼす
(nostra peccāta は対格)
語順
格の章で格変化が要だと述べましたが, 格がわかれば文中において単語がどのような働きをしているのか (主語なのか目的語なのか等) がわかります. そのため語順にはかなりの自由が許されています. しかしながら, やはり一般的な語順というものは存在していて, 「主語(~が) + 間接目的語 (~に) + 直接目的語 (~を) + 述語動詞 (~する)」 で記述されることが多いです.
例 : Magister līberōs litterās docet.
ラテン語 | 逐語英訳 | 文要素 |
---|---|---|
Magister | A teacher | 主語 |
līberōs | children | 間接目的語 |
litterās | letters | 直接目的語 |
docet. | teaches. | 述語動詞 |
文字
印欧語族の文字 (俗にアルファベットと呼ばれる) の基礎を生み出したのがラテン人です. ラテン人は, ギリシア文字を元にラテン文字を作りました. ラテン語で用いられる文字は表の通り, 古代には大文字しかなく, 小文字が一般的に使われるのは中世になってからです. また, I と J に関してはもともと I しかありませんでしたが, 後の時代に J が導入されました. U と V に関しても同様で, V しかなかったのが後に U が導入されました. また, Y と Z はもともとラテン語には存在していませんでしたが, ギリシア語などの外来語を表記する際に必要となって作られました. 現在のアルファベットにある W にあたる文字はラテン語では存在しません. 古典ラテン語の文献の原本を当たると, 大文字で書いてあったり I と J を区別していなかったりしますが, 私たちが学ぶ際には理解しやすいように区別をはっきりとさせています.
文字一覧
大文字 | 小文字 | 名称 |
---|---|---|
A | a | アー |
B | b | ベー |
C | c | ケー |
D | d | デー |
E | e | エー |
F | f | エフ |
G | g | ゲー |
H | h | ハー |
I | i | イー |
(J) | (j) | |
K | k | カー |
L | l | エル |
M | m | エム |
N | n | エヌ |
O | o | オー |
P | P | ペー |
Q | q | クー |
R | r | エル |
S | s | エス |
T | t | テー |
(U) | (u) | |
V | v | ウー |
X | x | イクス |
Y | y | ユー |
Z | z | ゼータ |
また, ラテン語には母音の長短があり, マクロンと呼ばれる長音記号を用いて区別します. が, ラテン語原文には現れないので注意が必要です. 例えば「性・数・格」の章で例に出した māter は, ラテン語原文を当たると”mater”としか記載されていませんが, 読み方は「マーテル」のままです. ちなみに, 短母音を表す記号として ̆ がありますが, ほとんど使われません.
短母音 | 長母音 |
---|---|
a [ア] | ā [アー] |
e [エ] | ē [エー] |
i [イ] | ī [イー] |
o [オ] | ō [オー] |
u [ウ] | ū [ウー] |
y [ユ] | y̅ [ユー] |
参考文献
- 土岐健治 井阪民子,『楽しいラテン語』, 教文館, 2022
- 岩崎務,『ニューエクスプレス+ ラテン語』, 白水社, 2018
- 日本人のためのラテン語, 最終閲覧日 2022/5/8