Skip to content

古典ギリシア語 / Ἑλληνική

性, 数, 格

人称代名詞だけではなく, 名詞, 形容詞, 定冠詞のすべてにおいて性, 数, 格の区別があります. 不定詞と形容詞は修飾している名詞に性, 数, 格を一致させます. そのため語順はかなり自由です. 名詞の活用は第一変化, 第二変化, 第三変化の三つの種類に大別され, それぞれ異なります. 形容詞の活用は第一・第二変化と第三変化の二つに大別されます.

名詞は女性, 中性, 男性の三つの種類があります.

  • 女性名詞 : μήτηρ「母」 φωνή「声」
  • 中性名詞 : παιδίον「子供」 βιβλίον「本」
  • 男性名詞 : πατήρ「父」 λόγος「言葉」

形容詞や定冠詞の性は修飾する名詞の性に呼応します. 形容詞の活用は種類によりますが,形容詞と名詞で共通する活用を持つ単語もあります. その場合は語尾が韻を踏む形になりピッチアクセントも相まって独特のリズムを生み出します. 声に出して読んでみると楽しいかもしれません. 一つ目の単語が定冠詞で, 二語目が「良い, 美しい」を表す形容詞です.

  • 女性名詞 : ἡ καλή φωνή その美しい声
  • 中性名詞 : τό καλόν βιβλίον その良い本
  • 男性名詞 : ὁ καλός λόγος その美しい言葉

単数/双数/複数の区別がありましたが, 古典ギリシア語の時代にはすでに双数は複数で代用されるようになりました. 名詞を複数形にするときはその名詞の語尾を活用させます. 活用の仕方は名詞の種類によるので例としてすでに出てきたものを活用させます.

単数複数
φωνήφωναί
βιβλίονβιβλία
λόγοςλόγοι

形容詞の数は性の時と同じように名詞に呼応します.

単数複数
καλή φωνήκαλαί φωναί
καλόν βιβλίονκαλά βιβλία
λκαλός λόγοςκαλοί λόγοι

名詞には主格, 属格, 与格, 対格, 呼格の五つの格があります. 五つの格は語尾の活用によって表されます. 以下で具体例を示します.

  • 英語 : I hear the voice of a girl.
  • 古希語 : κόρης τὴν φωνήν ἀκούω.
  • 逐語訳 : 少女の (定冠詞) 声を 私が聞く
  • 格 : 格 属格 対格 動詞(一人称単数)

形容詞は性や数と同様に修飾する名詞の格に呼応して活用します.

  • 英語 : I hear the good voice of a clever girl.
  • 古希語 : σοφῆς κόρης τὴν καλήν φωνήν ἀκούω.
  • 逐語訳 : 賢い 少女の (定冠詞) 美しい 声を 私が聞く
  • 格 : 属格 対格 動詞 (一人称単数)

前置詞によっては後ろにくる名詞の格が指定され, 格によって前置詞の意味が異なることがあります.

動詞組織

古典ギリシア語の動詞体系は形態論的にかなり複雑で, 印欧祖語の姿を色濃く残しているとされています. 以下に示す相や時称, 法の区別は全て動詞の語形によって示されます. 語尾の違いから動詞には ω 動詞と μι 動詞の二種類に分かれます. 簡単のために, 例は全て ω 動詞にしてあります.

人称

主語の人称によって語尾が変わります. 一人称, 二人称, 三人称の三種類の区別があります. 語形から主語が推測できるので主語が省略されることが多いです.

ω動詞の例日本語訳
ἀκούω私が聞く
ἀκούειςあなたが聞く
ἀκούει彼, 彼女が聞く

主語の数によって語尾が変わります. 単数, 複数の2種類の区別があります. 動詞の語形から主語が推測できるので主語が省略されることが多いです.

ω動詞の例日本語訳
ἀκούομεν私たちが聞く
ἀκούετεあなたたちが聞く
ἀκούουσι (ν)彼ら, 彼女らが聞く

法としては直接法, 接続法, 命令法, 希求法の 4 つがあります. 法は「話者が動作や状態をどの程度事実として確信して述べているか」を表します. つまり4つの法は「話者の断定の度合い」をそれぞれ表しています.

直説法

話者がその動作を事実として扱いながら単に叙述していることを表します. また「;」を語尾につけることで直説法疑問文を表します.

ἀκούεις;「あなたは聞くか?」

接続法

話者がその動作の事実性をある程度疑い, または躊躇しながら叙述していることを表します. 話者はその動作や状態を1つの可能性として扱っています.

ἀκούηις「あなたは聞くかもしれないが (とすれば etc.)」

希求法

話者がその動作の事実性をかなり程度疑い, または大きく躊躇しながら叙述していることを表します. 接続法と比べると弱い可能性を示し, 専ら「実現可能な動作の願望」を表現するのに用いられます.

ἀκούοις「あなたが聞いてくれれば良いが (仮に聞いたとしても etc.)」

命令法

話者がその動作を自分の意志を他者に伝えた後に, 他者が意志を働かせて初めて事実となるような可能性として叙述していることを表します. 希求法よりもさらに弱い可能性を表現します.

ἀκοῦε「聞いてください (聞け etc.)」

アスペクト, 時制

ギリシア語のアスペクトでは, 動作そのものがどんな現れ方 (様相) で捉えられるかを表現します. ここでの「様相」はその動作が実際にどんな起こり方をしたかではなく, あくまで話者がそれをどのように捉えているかが基準になります. アスペクトは以下の3つです.

  1. 点的アスペクト (・)
    動作の生起をかたまりとして全体で捉えるアスペクトです.

  2. 線的アスペクト (―)
    動作が継続や進行, 反復していると話者が捉えているときのアスペクトです.

  3. 点+線的アスペクト (・―)
    動作を完成品として捉え, 既成事実として眺めるときのアスペクトです.

直接法には時間による区別とアスペクトによる区別を掛け合わせると 7 つの時制があります.

点的アスペクト線的アスペクト点+線的アスペクト
未来未来未来未来完了
現在現在現在現在完了
過去アオリスト未完了過去過去完了

例えば, παύω「止める」は 未来時制で παύσω, アオリストでは ἔπαυσα, 過去完了では ἐπεπαύκη, といった具合に加音や畳音でそれぞれの様相を表します.

一方接続法, 命令法では 3 つのアスペクトによる区別のみです.

点的アスペクト線的アスペクト点+線的アスペクト
アオリスト未完了過去現在完了

希求法では接続法の3つのアスペクトに加えて時間を表すために未来形があります.

能動態と受動態に加えて中動態があります. 能動態が自分から他人に向ける動作, 受動態が他人から自分に向けられた動作を表します. この言い方を用いれば中動態は自分から自分に向けた動作を表すと言えましょう. 具体的におおよそ次の3つの意味を示します.

  • 「自分に対して...する」
  • 「自分のために...する」
  • 「自分たちの間で...する」

そして例の如く動詞の語形によって示されます. しかし未来とアオリスト以外の時制では中動態と受動態の語形は同じです. 中動態の語形に前置詞句<ὑπό+属格>「...によって」を加えることで受動態を表します.

  • 能動態 : λούω τὸν δοῦλον. 私が召使いを洗う
  • 中動態 : λούομαι. 私が私を洗う
  • 受動態 : λούομαι ὑπό τοῦ δούλου. 私は召使いに洗われる

語順

これまでで見てきたように格の区別を語形によって示せるので語順はかなり自由です. 述語動詞は基本的に文末に持ってきますが必ずしもそうではありません. その場合は特別なニュアンスを帯びません.

しかし形容詞はその位置によって意味の違いがあります. 形容詞が<定冠詞+名詞>の間に割り込むと限定用法として, それ以外だと叙述用法として働きます.

  • 限定用法 : ἡ καλή φωνή その美しい声
  • 叙述用法 : καλή ἡ φωνή その声は美しい

文字

文字一覧
大文字小文字音価名称
Αα[a], [aː]アルファ
Ββ[b]ベータ
Γγ[g], [ŋ]ガンマ
Δδ[d]デルタ
Εε[e]エ・プーシロン
Ζζ[zd]ゼータ
Ηη[ɛː]イータ
Θθ[th]テータ (シータ)
Ιι[i], [iː]イオタ
Κκ[k]カッパ
Λλ[l]ラムダ
Μμ[m]ミュー
Νν[n]ニュー
Ξξ[ks]クシー
Οο[o]オミクロン
Ππ[p]ピー (パイ)
Ρρ[r]ロー
Σσ/ς[s], [z]シーグマ
Ττ[t]タウ
Υυ[y], [yː]ユー・プーシロン
Φφ[ph]ピー (ファイ)
Χχ[kh]キー (カイ)
Ψψ[ps]プシー
Ωω[ɔː]オー・メガ

参考文献

  • 堀川宏,『しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語』, ベレ出版, 2021
  • 織田昭,『新約聖書のギリシア語文法I』, 教友社, 2003