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ドイツ語 / Deutsch
性, 数, 格
性
名詞は女性, 中性, 男性に区分され, それによって屈折が異なります.
- 女性名詞 : Mutter「母」, Blume「花」
- 中性名詞 : Kind「子ども」, Auto「車」
- 男性名詞 : Vater「父」, Sommer「夏」
数
名詞には単数/複数の区別があります. 複数形の作り方は大きく分けて五種類 (無語尾・E 型・ER 型・(E)N 型・S 型) があります.
- ER 型の例 : Mann「男」> Männer
Männer について
1同系統の英語でも同じように man > men となり母音が変化します. これらは i ウムラウトといいゲルマン語共通の†母音調和現象です. これはゲルマン祖語 *mann-iz 「男達(が)」のようにある 母音(今回は a)に続いて*i が存在するときに, 先に存在する母音が *i によって変化するという現象です. ドイツ語では ä に, 英語では e になっています. また英語では *-iz に相当する部分が脱落していますが, ドイツ語にはその痕跡 -er を見ることができます. この場合 *z はロータシズム によって r となっています.
- (E)N 型の例 : Name「名前」> Namen
Namen について
英語も昔は n を付加して複数形を表すことがありました. child-r-en の末尾にこの痕跡が残っています.
上記 ER 型の例のように, 複数形になると母音の上に ¨ がつき, 異なる母音となるものがあり, これをウムラウトといいます.
格
日本語では格を標識するために格助詞が用いられますが, ドイツ語では名詞と結びつく形容詞・冠詞類が格を標識します. 名詞には主格, 属格, 与格, 対格の四つの格があり, そのため格の標識を語順に頼る英語と比べて比較的語順は自由です. また前置詞によって後ろにくる名詞の格が指定され, 格によって前置詞の意味が異なることがあります.
備考
印欧祖語の段階では格は少なくとも 8 つあったと言われており, 昔のドイツ語には他に具格などがありました.またドイツ語学特有の格の呼び名があり, 主格, 属格, 与格, 対格の順に 1 格, 2 格, 3格, 4 格と呼ばれることがあります.
時制
動詞の形としての時制は, 英語と同様に現在と過去の2つしか存在しません5. ですので未来の事柄について述べるときは法助動詞を使って表すことになります.
- ドイツ語 : Morgen werde ich Tennnis spielen.
- 英語逐語訳 : Tomorrow will I tennis play.
備考
動詞単体で未来時制を表すことのできる言語もあります. 例えばラテン語には amō「私は愛する」に対し amābō 「私は愛するだろう」という語形があります.
アスペクト
完了相/未完了相がありますが, 未来時制の時と同様動詞の形として存在しているわけでは ありません6. 基本的に完了相は haben + 過去分詞(haben は英語の have に相当)で作り ますが, 一部 sein + 過去分詞(sein は英語の be 動詞の原形に相当)で作るものもありま す.
(現在完了) Ich habe ein Buch gekauft. 「私は本を買った」
(habe は haben の 1 人称単数形)
詳細
動詞単体で完了相を表すことのできる言語もあります. 例えばラテン語には amō「私は愛する」に対し amāvī 「私は愛した」という語形があります.
法
直説法, 接続法, 命令法があります. 接続法は 1 式では要求や間接話法, II式では非現実の事柄について述べるときに使われます. 英語の仮定法はこの接続法の一種です.
- (間接話法) “Ich bin müde.” → Er sei müde.「彼は疲れたと言っている」
- (非現実) Wenn ich Zeit hätte, führe ich in die Stadt.「暇なら街へ行くのに」
態
能動態と受動態がありますが, 動詞の形として存在しているわけでありません. 受動文の作り方は主に助動詞 werden と過去分詞を組み合わせて作ります.
- (受動態) In Japan wird Japanisch gesprochen.
日本では日本語が話される
(wird は werden の 3 人称単数形)
語順
ドイツ語では定動詞は文の二番目の要素に来ます (定型第2位).
- ドイツ語 : Fußball spiele ich heute.
- 逐語英訳 : Football play I today.
参考文献
- 佐藤峻一 石川克知 橋本聡 鈴木純一 西村龍一,『ドイツ語の扉』, 同学社, 2021
- Bruce Mitchell / Fred C. Robinson,“A Guide To Old English”, WILLEY-BLACKWELL, 2021
- 吹田隆道,『実習サンスクリット 文法』, 春秋社, 2019
- 河島思朗,『基礎から学ぶラテン語』, ナツメ社, 2016
- Don Ringe,”From Proto-Indo-European to Proto-Germanic”, OXFORD LINGUISTICS, 2017